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静かな世界に響く、一つの音

自分の趣味全開で書いていく、そんなブログです。

【物語】「最後の一日をもう一度だけ」見えない真実 わからない気持ち

物語

 

leo1592.hatenablog.com

 

キンコンカンコン、よくある鐘の音が聞こえてくる。

私は机にノートを広げながら考えていた。彼女、ゆいは今日の夜、交通事故によって死ぬ。そう思うだけで背筋が凍る感触が鳥肌となって現れる。恐れてる場合じゃない、助けるんだ。そう心を奮い立たせこれからの行動を考える。放課後までは普通に過ごしていいだろう。事故は夜に起きる。ならそのとき私がそばに居れば防げるはず。ゆいと別れたあと、そのあとを追うように見張り続ける。きっと何かの用事で外に出てきたところで事故にあったはずだから、そこを助ける。それでゆいは救われるはず。今の私にはこれくらいしか考えつかないけど、きっと助けて見せる。いろいろ考えていたら一時限目が終わっていた。

放課後、ゆいと並んで帰る。ビデオテープを巻き戻したのようにあの日を忠実に再現されていた。たわいのない会話。いつものように寄るクレープ屋。そして分かれ道。

「じゃあね、なっちゃん。また明日!」

そう言って手を振りだんだんと小さくなっていくゆい。

 

ゆいが曲がり見えなくなったところで、後を追うように歩いて行く。前にゆいの家に遊びに行ったときに教えてもらった道と同じ道順でたどる。そこは一軒家が並び、その一つがゆいの家だが教えてもらわなければわからないほど似たような景色が続いていた。向かい側は木で覆われているけど公園になっている。私はゆいの家が見える位置の木の影で姿を隠すことにした。

時計の針は午後八時を指していた。これまで特に変わったことはなかった。ただ私の姿を見て怪訝な視線を送る通りすがりの人がいたけど。まあ、そうかもしれない。こんな人気のない公園で木に背を預け、じっとしている姿を見たら。ガチャリとどこかの家の扉が開く音が聞こえた。私はすばやくその方向へ視線を向ける。ゆいの家だった。これから何かが起きると確信した。ゆいの家から飛び出した人影がひたひたと走る音が聞こえる。おかしい。普通走るとこんな音はしない。不思議に思いながらも体を動かし木の陰から出ようとした。

「誰か助けてっ!!」

一つの声がこだました。届いた声はゆいではなかった。薄暗い影から電灯の灯りを頼りに誰か確かめようとした。ゆいのお母さんだった。でもどうして……。そう思っていると扉から人影がぬっと出てきた。玄関の明かりに照らされて見えた顔はまぎれもないゆいだった。でもどういうこと?お母さんが助けてと言い出てきて、その次にゆいが現れた。家の中で何かが起きている?その思いはゆいの次の言葉で吹き飛んだ。

「お母さん、逃げちゃだめだよ……」

そう言いながらふらふらとこちらに近づいてくる。そして電灯の灯りに反射して手元が光る。あれはいったい……。ずるずる這いつくばって逃げてうわごとのように「やめて、殺さないで」というつぶやきが耳に入る。二人の距離は確実に縮まっていた。私は二人の間に飛び出した。

「ゆいっ!どうしたの?」

私の声は聞こえてないみたいで、その問いに答えず口を開く。

なっちゃん、どいて。お母さんもうすぐだよ、もうすぐ……」

私には意味が解らない言葉を話すゆいは私の知っているゆいじゃないみたいだった。さっきまで手元に光るものが何だったのかわからなかったが今はわかるようになっていた。包丁だ。包丁を持っている。それを母親に向けていることを私は理解する。

「やめて!ゆいっ!」

私はたまらず叫ぶ。それでも歩みを止めず近づいてくるゆい。

なっちゃん、どいて」

さっきより強い声で同じことを言われる。私はどうしていいかわからず、ゆいから包丁を取り上げようとした。

「放して!なっちゃん!!」

私たちは一つの包丁を取り合うようにもがいていた。

「はぁっ!!」

私は包丁をゆいの手から取り上げることに成功したと思ったが、ゆいが再び包丁を手にしようとぶつかるように手を伸ばしてきた。

「えっ――」

訳が分からなかった。包丁がゆいのお腹らへんに食い込んでいた。それは私の手から伸びていた包丁の先だった。耳元がキーンと鳴る音が聞こえる。立っているのか倒れているのかわからない。ただどす黒い液体がびちゃびちゃと流れる音が絶えず聞こえた。かすかな声が雑音の中、耳に届く。

なっちゃん……ごめん……ね」

私は真っ黒に塗りつぶされたキャンバスのように意識が沈んでいった。

 

「……ん」

眩しくて身じろきする。目を開けると公園のベンチで横になっていた。私はノイズが掛かった映像が頭の中に流れる。

「きゃああぁぁーー」

ワンテンポ遅れた叫び声が早朝眠っていた鳥たちが驚き飛び去っていく。手に残る感触を振り払うかのように携帯に手を伸ばす。

6月18日。二度目の朝を迎える。

 

to be continued……?