世界樹の迷宮5 妄想ストーリー3章「冒険のスタートラインへ」
再び出会う仲間たち
魔女の黄昏亭の扉を開けると、活気づいた声が押し寄せてきた。
何人もの冒険者がテーブルでカップを片手にまるで子供のようにはしゃいでいる。
迷宮が云々、装備が云々という話があちらこちらで聞こえてくる。
(……確かにこの人だかりだともしかしたらナナミたちもいるかもしれない)そう思って人の間を縫って進んでいく。
どこかから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「サーちゃんっ、こっち、こっちだよ!」
声のする方に目線を向けるとぴょこぴょこ跳ねるように大きく手を振っているユンの姿が見えた。
はやる気持ちを抑えきれず、考えるより早く足は動いていた。
「ユン……よかった、ようやく会うことが出来て」
「それはこっちのセリフだよっ、心配したんだから!サーちゃんあのときちゃんと待っててねって言ったよね!?」
怒った風に言うユンの後ろから、艶やかな長い黒髪を揺らしながら近づいてくる一人の少女が言う。
「……サクラ、心配した、森の中でいなくなったときもう会えないかと思った」
「ナナミ……ごめんなさい、ただ待ってるのもあれだからちょっとそこらへんで採取しようと思ってただけだったんですが、いつの間に戻る道が分からなくなってしまいました……」
「こういうことが起こるから待っててって言ったんだよ!」
ユンは畳み掛けるように言った。
そんな中ナナミはサクラの姿をじっくりと眺めるように見つめる。
いつもは綺麗に整っている髪がボサボサとでもいうようにあちらこちらが跳ねていた。
鎧だって泥がついてて、まるでさっきまで森にいたかのようだ。
もしかしてと思い聞いてみる。
「……サクラ、さっきまで森の中にいたの?」
「うっ……そ、ソンナコトナイヨ?」
サクラの目線はうろうろしていて、棒読みのように答えたところを見るとそうだったらしい。
「え、うそ、だってボクたちと迷子になってからもう何日も……」
ユンは思い出すように指折り数える。
「……そう、じゃあ宿屋に行かなくっちゃ」
「そうだね、サーちゃんのことだから街に来てからも迷子になってたと思うし」
恥ずかしくなったのか、うつむき加減で小さな声で「お願いします……」と言った。
宿を求めて
黄昏亭を出て、サクラには迷路とも思える道をたどり、宿に着く。
宿の扉を開き、中に入ると一人の店員に声を掛けられる。
「お二人様おかえりなさい、あら?後ろにいる方はもしかして?」
「そうだよ、来る途中ではぐれちゃった仲間のサーちゃんだよ」
ユンがそんなことを言うので恥ずかしくなり、これ以上何か言われる前に話に割り込む。
「初めまして、サクラと申します。早速ですが部屋の方へと案内して頂けませんか?」
「サクラさんね、わかったわ。こちらへどうぞ」
笑みを崩さず私たちを部屋へ案内してくれた。
「なにかあったら遠慮せずに呼んでね」
そういうと来た道を戻り、階段を降りていった。
ドアを開けると久しぶりに見るベッドと安らげる空間が広がっていた。
ふぅっと一息ついて椅子に腰かける。
目を閉じれば夢の世界に行ってしまいそうになるほど、疲れていることに気づいた。
「……サクラ、疲れているときに言うのも何だけどお風呂に入った方が良いと思う」
その声で沈みゆく意識を引っ張り起こされた。
「そうね、じゃあそうさせてもらおうかしら」
荷物の中から必要なものを取り出し、風呂場に向かった。
これから先なにがあっても
その頃、ユンとナナミは話していた。
「これからどうするんだろうね?」
これからとはつまりここに来た目的、迷宮の探索。
ここにいる冒険者はみな迷宮に挑んでいる、何らかの理由で。
私達だって理由がある。
だけど、それを達成するには今までの冒険者たちではたどり着けなかったその先に行かなくっちゃいけない。
果たしてその先へと進めるだろうか。
分からないけど、サクラがいるから大丈夫だって思える。
だってサクラは私を救ってくれたから……。
「……サクラが戻ったらみんなで話そう、これからのこと」
安らぎの夜
タオルで髪の毛を拭きながら、部屋へと戻ってきたサクラ。
「さっぱりしました、久々のお風呂は良かったです。ただ、水の中でおぼれる夢を見ました、なんだかとてもリアルでした」
それは実際におぼれてたんじゃ、と思いはしたが言葉には出さないナナミ。
サクラがいない間あまり眠れてなかったからか、一人大の字になってベッドで寝ているユン。
そんなそれぞれの夜を過ごし、朝を迎える。
始まりのはじまりへ
サクラは二人に向かって言った。
アルカディア評議会、それは迷宮に関わる事柄を扱っているこの街で一番偉い人物が働いている場所。
誰もが迷宮に入れるわけではない。
アルカディア評議会から出されたミッションをクリアし、証をもらわなければ迷宮に挑むことすらできない。
しかし彼女たちはまだ知らない。
この最初のミッションでこの街に訪れた冒険者の三分の一が消えていることに。
迷宮は過酷で慈悲などない、頼れるのは自分と仲間だけ。
多くの冒険者たちを葬り去ってきた迷宮に法を持ち込んだのが評議会だ。
しかし、評議会そのものの全容を知る者はいない。
そして今その門をたたこうとする三人の冒険者の姿があった。
つづく?