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静かな世界に響く、一つの音

自分の趣味全開で書いていく、そんなブログです。

【物語】少女と白い花とお花畑

物語

 少女は言いました。

「このお花畑はとてもきれいで、今まで見てきた景色で一番心に残りそう」

 そうつぶやくとお花畑に近づいて行きました。花は陽の光を浴び、昨日降った雨がキラキラと輝いていました。少女は服が濡れるのも構わず、お花畑を歩いていきます。その足取りは軽く、自分の背丈ほどある花々たちをかき分けていくように花を押しのけます。少女は知らず知らずのうちに鼻歌を歌い出しました。花たちはそれに耳を傾けて聞いています。

「ららら~らら~♪」

 少し音程の外れた音を微笑ましく感じられます。ご機嫌斜めな少女は自分の立てる音に気づきません。腕で花をかき分けるときにときたまバキッといやな音が鳴ります。それに気づいているのは周りの花だけでした。

 

「ここは素敵な場所ね。いつまでも居たいくらい……」

 少女の言葉は後半になるにつれ小さくなっていきました。

 この場所は町はずれにあるお花畑。誰もが知っている、そして誰もが近づかない場所。ここは昔、争い事があったそうです。この場所で何人もの命が消えていきました。どんな理由かは定かではありませんが、それはきっと良い出来事ではなかったのでしょう。人々はこの争いに心を痛めました。そこで町長がここに花を植えようと提案しました。町の住民はそれぞれ花の種を持ち、植えました。ひまわり、チューリップ、アジサイコスモス、色とりどりの花の種です。ですがしばらく経つと不思議なことが起こりました。咲いてくる花の色がどれも赤いのです。普通はひまわりを想像すると黄色ですが咲いてきた色は赤でした。確かに赤いひまわりがないわけではないのですが、庭に咲いている黄色のひまわりから取った種を植えたのに、赤いひまわりが咲いたのは不可思議でした。そしてその他の花もみな赤かったので町の人々は段々と気味が悪くなってきました。ある人はここで流された血を吸って咲いた花と言い、ある人は恨みを表した色だと言いました。

 あるとき、家族でこの不思議なお花畑を見に来ました。赤い花が一面に咲く場所があると聞き、遠くから訪れました。家族みんなはそれぞれ驚きの声をあげました。こんな場所があったんだ。すてきね。すごーい。家族は遠くから見るだけじゃもったいないと言って近づきました。このころ、もう平常心ではなかったのかもしれません。まるで吸い寄せられるようにお花畑に入りました。近くで見るとよりすごいな。ほんとう。ぼくの身長より大きい。それぞれ興奮した面持ちで中に入ります。ザクザクザクと花をかき分ける音を立てながら歩いていきます。家族はみなどこかを目指すように一心不乱で歩き続けました。その家族はどこにたどり着いたか、今どこで何をしているのか知る者はいません。

 少女はかすかに人の声が聞こえた気がしました。その声のする方へ向かうことにしたのです。ザクザクザクと花をかき分けながら。声がする方に歩いているのに一向に声は近づいてきません。少女の心はなぜだか焦りました。歩みを早め必死に近づこうとしました。お花畑から聞こえるのは少女の荒い呼吸だけです。少女はふと歩みを止めました。そして自分の体を見下ろしたのです。そこには白いワンピースの後影もありませんでした。あるのはそこらじゅうに咲いている花と同じ色。赤い色をしたワンピースでした。よく見るとワンピースだけでなく、皮膚からも赤いものがじわりじわりと出てきています。辺りを見回すと花たちの茎の部分に赤くてらてらしたものが見えました。それは体からぽたぽたと流れ落ちるものにとても似ていました。茎の部分にはきれいな花には似つかわしくない鋭く尖ったものがついていました。少女の体には無数のひっかき傷ができています。それとこれを結びつけることは少女には出来ませんでした。辺りからざわざわと声が聞こえてきました。さっきまで近づこうとして近づけなかった声が向こう側から近づいてきたのです。少女は冷たくなる体を抱きしめ、声を必死で聞き取ろうとします。そしてささやくような声で聞こえてきました。ありがとう、と。それは誰に対する言葉だったのか、分かりません。少女は倒れこみました。その表情は苦痛に満ちたものではなくその逆、満足した表情をしていたのです。少女の周りは真っ赤に染まった血が水たまりのようにできていました。やがてそれは地面に吸い込まれ跡形もなくなっていました。まるで少女がそこには最初から存在しなかったかのように。

 少女が今どこで何をしているのか誰も知りません。

 この町で一つの話があります。町の誰もが知っている場所で誰もが行かない場所。そしてその存在は町の人しか知りません。ただときたま遠くからその場所に来ます。それはどうしてなのか。昔あった争いで町の人はひどいことをしました。その償いとして花を植えました。最初は綺麗な色とりどりの花が咲きました。しかし、町の人が訪れるとその人は帰ってきませんでした。異変に気付いたときには町の人口は三分の一ほど減っていました。それに比例するようにお花畑は三分の一ほど最初と姿を変えていました。残った町の人々は町長を元で、ある掟を作ります。それは町長が一人一人に花の種を与え、そして花の咲いた者の家はその花を、あのお花畑に植えるというものでした。その花の種は特殊で一度に一本しか咲かないというものです。しかしここである出来事がありました。どうしても行きたくないという人が現れました。そこで、とある遠くに住む親せきに花を渡し、お花畑に植えてきてほしいとお願いしたのです。その話はすぐに伝わりました。でもそれを咎める者は現れませんでした。それどころかそうする者が続々と現れたのです。それは今でも続いています。

 町に住む一軒の家で花が咲きました。それはそれはとても白く、なんの穢れも知らない色をしていました。そこにとある理由で預けられた一人の少女が居ました。家族から否定され、近くの親せきからも疎まれる、そんな一人の少女がたどり着いた遠くの親せきでした。そこでは今までとは違い、とても歓迎されました。自分はここにいて良いんだ、そう思えた場所でした。そんな楽しく過ごしていく日々の中、親せきからお願いごとをされました。この白い花を町のはずれにある、お花畑に植えてきてほしいと。少女は喜んで引き受けました。お気に入りの白いワンピースを着て、手には白い花を握って歩いていきます、お花畑に向かって。

 そんな後ろ姿を見つめる親せきの姿がありました。親せきは神に感謝したい気持ちでいっぱいでした。素敵な贈り物をありがとう、と。