読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

静かな世界に響く、一つの音

自分の趣味全開で書いていく、そんなブログです。

記憶に残ってる昔は時代が良かったのではなく自分で行動してたから良かったんだ

「昔はよかったって感じるかい?」

 誰に向かうわけでもない言葉が辺りを包む霧のようにじっと張り付いた。確かに今に比べれば昔は色々できた。それは若さだとか、勢いだとか、そんな常識必要ないって言って、重心がどこにあるかわからないボールのようにいろんなところを跳ねて回った。それが今となっては懐かしい思い出だ。それに比較して今はどうだ?毎日同じことを繰り返し、眠る。休みの日だって仕事のことを考えると無茶はできない。なんだかすごく保守的になったとは感じないかい?でもよく考えると違う。休みの日の次の日を考えられるようになった。それは未来を見通せるようになった、てことだ。別に予言してるわけじゃない。ただ明日のことを考える。それは現在から未来へと時間を感じられるということ。昔がよかった、て感じるのは現在と過去がくっきりと別れているから思えるからだ。昔の自分に戻ってみるとわかることがある。あの頃は無茶だとか、若さとか感じたことはなかった。そして未来さえも感じられなかった。あるのは今だけ。だから行動できた。今しかないなら何も怖くない。例え悪いことをしても、そんな過去はすぐに消えてなくなる。宿題をやらなくたって怖くなかった。そんなもの明日の自分の押し付ければいい。

 

 過去と未来を失くし、今だけを見てる、そんな昔の自分を見てあの頃はよかったと言う。そりゃそうだ、今しかないなら人間いくらだって生きられるし、お金だって使いたい放題だ。時間だって無限にあるように思ってた。でもいつの日かわからないが、いつの間にか変わっていった。時間が体に絡みついて離れない。今だけの自分に過去がくっついてくるように、それを引っ張る形で未来が前から現れた。前から後ろから壁が迫ってきたんだ。そのうち今の自分は今だけではなくなった。出来ることが少なくなった代わりに、後ろを振り返ることと、前を少しだけ見渡すことが今の自分に与えられた。

 昔と今と未来の違いなんて色の違いでしかない。今が色づいて見えれば過去はモノトーンのように見える。今が白黒で塗りつぶされていれば過去は鮮やかに思い出される。未来が輝いて見えれば今はその道にいるんだと安心できる。未来が崩れ落ちそうなくらいボロボロならどうにかできないかと今を模索する。比較対象によって変わるものなんてあまり美しくないなと思う。確かに絵でもあるように色を重ねることによって深みを与えるものもある。過去、現在、未来を重ね塗りしてきれいな絵なら一見の価値はあるだろう。そしてさらに美しくなっていくなら変わることも悪くはない、なんて思うかもしれない。だけどそんな絵はほとんど存在しないんだよ。色を重ねて深みを増すどころか、汚くなっていく。当たり前だ、色んな色を使えばやがて黒に近づく。周りを見渡せば、みんな黒ばっかり。これが変わることの美しさというのならいらない。欲しいのはただ永遠に変わらないもの。それは目には見えない。永遠に思えるのも自分だけで永遠にあり続けるもの自分の中だけだからだ。

 ただ、昔が恋しくなるのはあの頃の自分は自由に行動出来てたということかな。考えなしに行動するなんて今の自分では考えられないし、考えたとして出来ない。そんな自分がもどかしく、いらいらする。昔は階段を5段飛ばしで下りることができた。今じゃあ、どうだ? けがするかもしれない、骨折するかもなんて言いながら結局は飛べないんだ。子供はやがて大人になる。それはいいことだけではない。考えなくていいことも考えるようになる。見えなかったものが見えるようになる。全く、嫌になるよ、情けない自分が……ね。子供だった自分が今の自分を見たらなんて思うかな? 一言で言わせれば『格好悪い』かな。さて……。

「長くなってしまったけど僕の言いたいことはわかったかな」

 そう言って空虚な心の中に響く。

「僕は少し疲れたみたいだ、休むとするよ」

 霧の中歩いていくと椅子が並んでいた。数はたくさんあり、数えきれないほどだった。その中に座っている一人の肩をゆする。

「起きたまえ、もうすぐ出番だろう」

 彼は眠い眼をこすり、こちらを見る。

「そうか、もうすぐか」

 一息つくと立ち上がり、僕とすれ違うように歩いていった。それを見届けた僕は彼の座っていた椅子に座る。遠くからではたくさんの椅子の影しか見えなかったが、今ではその場所に人が座っていたことに気付いた。

「やあ」

 軽く挨拶をしてみる。が彼は手に持っているゲーム機に夢中のようだ。

「ふふっ」

 笑いがこみ上げてきた。その顔をよく見れば見るほど自分そっくりだ。それもそうかと思い眠りについた。

 ブツン。

 目を開けるとカーテンの隙間から光が差し込んでいた。俺はベットから出てカーテンを全開にし、全身で光を浴びる。

「あ~よく寝た……」

 壁に掛かってる時計を見ると午前6時50分を指していた。逆算してみると睡眠時間は7時間程度か、まあまあかな。起きて早々準備をする。何の準備だって?会社に行く準備に決まっているだろう? 顎に手をやると少し伸びたひげが辺りチクチクと気になった。あとで剃らなきゃと思いつつ、忙しい朝の時間が過ぎていく。

 ブツン。

 テレビのチャンネルを切り替えるように思い出を切り替えていく。最後に思い出したのは何でもない会社に行く一日だったな。もうすぐ命を終える私の最後の走馬燈の場面があんな何気ない一日とは。おかしくて笑いだしそうになる。けど笑えない、笑うことができない。息するのすら精いっぱいだ。視界だってぼやけてきて、記憶もあいまいになっていく。でもそんなのは関係ないかのように思った。

 最後に質問に答えよう。昔がよかったか、だって? 昔を思い出せる今があってよかった、てそう思えるよ。最後の時まで楽しませてくれる、そんな思い出たちがいっぱい溢れてきて心が熱くなる。そして最後にこう言い残そう、今が最高だ、と。

どこかでピーッという無機質な機械音が聞こえる。それは最後まで耳に残りそうだ。そう思いボタンを一つ押した。

 ブツン。