静かな世界に響く、一つの音

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世界樹の迷宮5 妄想ストーリー5章「戦いの幕開け そしてデウス・エクス・マキナ」

 

leo1592.hatenablog.com

 

迷宮の歓迎

「はぁはぁ、キリがないわね……」

汗が止まらない、迷宮がこんなに厳しいとは。

「いま何体め~?」

前衛で戦っているユンが疲れたような声で言う。

「……五体め」

いつも通り寡黙だが、前衛と後衛の間でバランスよく戦って疲れているはずのナナミ。

はじめてのモンスター

迷宮に入って数刻もしないうちだった。

草むらからぴょんと飛び出してきて、あっ、目の前にモンスターがいる!という感覚で戦った。

しかし、それが罠だということに今更ながら気づく。

わざと姿を見せて、時間差で周りからじわじわと追い詰める。

そういうタイプのモンスターだった。

最初のモンスターを倒した時には新たなモンスターが前と後ろから来た。

まるで狙ったタイミングのように。

うかつだった。

 

もう少し周りに注意していればと後悔するが、そんなひまはない。

今は目の前のモンスターに集中しなければ。

六体めのモンスターが飛び出してくる。

「ユン、斜めの方向にモンスターがいる」

声をかけると即座に反応する。

「やぁっ!!」

カタナの背の部分で敵を薙ぎ払う。

ドシュッと鈍い音を立てて敵が吹っ飛んだ。

いわゆる”みねうち”というものらしい。

敵にダメージをあまり与えられないが距離を取りたいときに有効だ。

「ナナミ、お願い」

「……うん、まかせて」

短い返事とともに詠唱をはじめる。

鎌の回りに薄黒いもやみたいなのが集まりだす。

それはやがて霧とも呼べるくらいの密度になった。

「……ふっ」

鎌を振り払い敵を霧で覆った。

この黒い霧は敵の防御力を一時的に下げるものらしい。

それを確認するとユンは構えをとる。

「真空裂斬っ!!」

カタナを腰付近に構え、目にもとまらぬ速さで振り抜く。

カタナによって圧縮された空気が押し潰され加速する。

それは形持たぬものを形にし、物理的に触れることができない空気が刃になる。

カタナの先、直線上にある敵に向かって飛んでいく。

目に見えない刃となって、敵を切り裂く。

敵は音もなく真っ二つに分かれた。

「ふーっ」

一息ついた。

どうやらモンスターの群れを倒したようだ。

「なかなか手ごわかったわね」

「あんなにいるなんて思わなかったよ」

「……疲れた」

各々そこらへんに腰を降ろす。

「これからどうしましょう?回復薬も少なくなってきています」

他にも疲労なんかもあるけど進めないほどじゃない。

まだ一エリアしか進んでいない今、先に進むべきかそうではないか考えどころだ。

「まだまだいけるよ、ほらっ」

迷宮入ったときよりぼさぼさになった髪を振り回しながら言う。

「……これぐらいで休んでられない」

そういうと次のエリアが見える森を見つめている。

「そうね、たしかにこれじゃあ日が暮れちゃうわね」

そう言って再び進むことにした。

しかしこれが間違いだった。

このときに引き返しておくべきだった。

今ではそう思う。

これから先も思い続けるだろう。

迷宮の牙の鋭さの片鱗を目の当たりにした今では。

そして彼女は叫ぶ

順調に地形をマップに書き込みつつ辺りを見回す。

とくにこれといった特徴は……。

「……あそこ、見て」

そこには岩があった。

ところどころ、欠けていてよく見ればキラキラ光るものが目に映る。

「なにか、採掘できそうね、ユン手伝って」

携帯用ピッケルでガシガシと岩を突っつく。

「う~固いなー」

ユンが言うようにとても固い。

携帯用ピッケルでは表面の岩を削り落とすのが精いっぱいだった。

「鉱石の欠片、みたいね」

そういって荷物袋にしまう。

「……サクラ、ユン、敵がきた」

ナナミはそういうとゆっくり武器を構える。

私も腰につけた剣を引き抜く。

隣のユンを見ると準備万端のようだ。

モンスターの見かけは毛深く牙が口に収まりきらないほど大きく、四本足でまるで犬を大きくしたようなものだった。

「気を引き締めていくわよ」

そういうといつもの体制をとる。

ユンがすばやく切り込むと私は盾を構える。

「ラインガードっ!」

ユンの前にうっすらと盾の形をした影が覆う。

これはライン、つまり私の線上にいるものの物理ダメージを軽減させるというものだ。

「はぁっ」

モンスターの首をめがけカタナを切り下げた。

ブシュっと音も出そうな勢いで吹き出る血。

しかしおかしい。

モンスターは何事もなかったかのように立っている。

「ユン、離れてっ」

わからなかったが、そう声に出していた。

モンスターは口を大きく開け、のどを震わせた。

ゴーっという地響きがするような声が空気を伝わって私たちの耳に届く。

両手を耳に当て少しでも防ごうとしたが、それでも鼓膜が破れるかと思った。

目を開けモンスターを見ると私には口がにやりと吊り上がってるように見えた。

「ユンっ!」

その場でうずくまるように倒れている。

それもそうだ、私より近くそして私より耳が良いユンにとってこの音は想像を絶するものだったはず。

モンスターが牙を突き立てるようにしてユンに向かっていく。

ダメ!そう思っても私は無力だった。

そこに一つの影が間に入った。

「ナナミっ」

大きな鎌は白いベールに包まれていた。

それを盾にユンの前に立つ。

ガキンっと鈍く重い音が響く。

ナナミは弾かれると同時に直線上にいたユンを抱え、後ろに下がってきた。

「大丈夫っ?」

「……大丈夫じゃない」

そういうと手がプルプル震えているのが見えた。

さっきの白いベールは攻撃力を抑える魔法だったはず。

それであの威力、到底いまの私たちではかなう相手ではない。

ユンはうめき声をあげ気絶している。

この状況、どうすれば……。

そこまで考えている余裕はなさそうだ。

モンスターはナナミを襲ったその牙を今私たちに向けている。

私は言った。

「ナナミ、ユンを抱えて逃げて。私がガードしている間に。」

ナナミは表情一つ変えない。

そして一言、「……いや」といった。

「このままじゃみんなやられちゃう、二人だけでも……」

これ以上言い合っている時間はなかった。

「早くっ!」

モンスターが目の前に迫ってきた。

どうか、二人だけは無事に、そう思い全身全霊を掛け盾に力を込める。

「――第一火炎魔法 ファイアーボール」

どこからか声が聞こえてきた。

そう思ったら目の前に火の海が広がっていた。

「えっ……」

二つの影が私たちの前に現れた。

 

つづく?