世界樹の迷宮5 妄想ストーリー番外編「ゲームをしたら異世界に来ていた」
私は玄関の前でそわそわしていた。
今か今かとその時を待っている。
さくら(まだかな……)
しばらくして一台のトラックが目の前に止まる。
さくら(もしかして!!)
そしてトラックの運転手がブツを持ってこちらに近づいてくる。
運転手「こちら、お届けに参りました、サインをお願いします」
さくら「はいっ!!」
ささっと書いて例のブツを受け取る。
ありがとうございましたという声が背中の方から聞こえた。
しかし、さくらにはその声は聞こえていなかった、いやそれどころではなかった。
さくら「やった!ついにこの時が来たっ!!」
跳ねるような足取りで階段を上がり自室へと飛び込む。
そこからの行動は早かった。
段ボール色した封筒を素早く破り、例のブツを取り出す。
さくら「これが、待ちに待った世界樹の迷宮5、しかも特典付き!!」
そう、今日は世界樹の迷宮シリーズの最新作の発売日だった。
そして久々のナンバリングタイトルである。
4が出たのは4年前、その間、新・世界樹の迷宮というのも出てはいたが彼女にとってそれらは関係なかった。
プレイしていて思ったのだ、これはなんか違う……と、そして長い年月の間求めていた正統なナンバリングタイトル5が手元にあるこの状況、テンションが上がらずにはいられない。
彼女は特典には目もくれず、パッケージに手を掛ける。
しかし、なかなかビニールが破れない。
3DSのビニールには破るための切り込みも何もない。
パッケージの上らへんにある、わずかな引っ掛かりを爪で何度もガリガリする。
格闘のすえ、ようやくビニールを破ることに成功。
さくら「さあ、ついにこのときが来た」
体験版をプレイした時に感じた興奮より感情が高ぶっている、恋焦がれた瞬間が今……。
パカっと小気味よい音を立ててパッケージが開く。
さくら「え……!?」
彼女の時は氷づいたかのように止まった。
中を見てみるとゲームソフトではなく、紙っぺらが一枚入っていただけ。
さくら「うそ……なんで、どうしてっ!!」
どこを探してもその紙しか見つからない。
動揺を隠せない様子の彼女だったが、仕方なしにその紙を手に取る。
そこには文字が書かれていた。
さくら「えっと、『世界樹の迷宮5のご購入ありがとうございます。本作品をVRでプレイできる、世界樹の迷宮VRに当選致しましたことをここに記します。下記に書かれているURLに接続し、パッケージ裏の番号を入力してください。それではお楽しみください』……と言うことはどういうこと?」
彼女の頭の中の処理能力が追い付いて行かない。
疑問はますます湧くばかりだが、とりあえず理解できたことはここに書かれている通り入力すればいいということに思い当たった。
スリープモードだったパソコンを即座に立ち上げ、URLを入力していく。
するとブラックアウトしたかと思うほど、黒々しい画面が表示された。
番号入力部分だけが白抜きされていて、何とも一世代前を想像させる作りになっている。
怪しいとは思いつつ、番号を入力していく。
そしてEnterを押した瞬間、画面がブラウン管テレビのような砂嵐が表示された。
しかし、彼女は気づいていなかった、自分の行動がおかしいことに。
さくら「……」
無言のまま見つめること数分、突然彼女の体が崩れ落ちるように倒れた。
しかし、彼女は気づいていない、自分が倒れたことに、意識がこの世界にもうないことに。
境界線を超えたその先に
再び目が覚めるとそこは見たこともない風景で、いったい何が起きたのか。
考えても思い出すことが出来ない、さっきまで何をしていたか。
そう、彼女は気がついてないが、今までの記憶を失ってしまった。
だから、今の自分の体を見ても驚かない。
さっきまではりっぱな成人の体をしていたが、今はまるで小学生、いや幼稚園生の小さな体になっていることに。
?「サクラちゃん?どこにいるの?出てきてちょうだい」
どこかから声が聞こえる。
何も思いもせず声のする方へと歩いて行く。
?「サクラちゃんここにいたの、探したんだから」
目の前にいる人物が誰か分からない、だから彼女はその純粋な疑問をぶつけた。
さくら?「だれぇ?」
?「なに言ってるの?ママよ、あなたのお母さん」
さっきまで空白だった記憶に書き込まれるように、思い出していく。
それはあたかもそうであったかのように。
さくら?「ママっ!!」
はじかれたように母親と言う人物に抱きつく。
ママ「よしよし、じゃあ下に降りようね、お友達が遊びに来てるのよ?」
さくら?「?」
ママ「学園でいつも一緒に遊んでるユンちゃんとナナミちゃんよ」
彼女にとって初めて聞く名前のはずなのに、それは砂に水を垂らすように記憶に吸い込んでいった。
さくら?「ユンちゃんとナナミちゃんが来てるの?」
ママ「そうよ、だから早く下に降りましょ」
連れて行かれるように下に降り、テーブルに腰を掛けている二人の子供が目に入る。
?「サーちゃんっ!遊びにきたよ!!」
?「……サクラちゃん、あそぼ」
一人は元気よく、もう一人はおとなしめに話しかけてきた。
さっきまで記憶がなかったのが嘘のように彼女の記憶は作られていた。
さくら?「ユンちゃん、ナナミちゃん!!」
どっちがどっちかなんてことはあたりまえのように分かる。
だって学園じゃあずっと一緒に勉強したり遊んだりしてたもん。
そして彼女はこのとき、さくらからサクラになっていった。
ユン「今日は外で遊ぼうよ!!」
ナナミ「……お人形遊びがいい」
サクラ「じゃあ、お昼まで外で遊んでそのあとはお人形で遊ぼう」
三人は仲良く遊ぶ。
その仲の良さはこの先もずっと続く。
十数年先の未来の話だが、冒険者になっても三人一緒に旅をするぐらいの絆だ。
しかし、このとき彼女たちはまだ知ることはなかった。
さくらがサクラになる日編 終了